多くの学生でごった返した大学の他の実習室とは異なり、織機の部屋はとても静かでした。これが、私の織物を始めた理由です。1993年のことです。それ以来、途中で少しばかりのブランクはあったけれども、タペストリーを織り続けています。静かな環境の中で、機の準備をし、心の声を託した糸を織り込む。何千回何万回と糸を叩き、下から上へと織り重ねてゆく。静寂、情熱、そしてある種の啓示。これらが揃わなくては私の作品は織り成されない。タペストリーは、繊維を使用した創作の一つである。繊維を使用した創作は、時代の時々で繁栄・衰退し、変貌し、迷走し、多様化し、その名称と概念もタペストリー、ファイバー・アート、テキスタイル・アート等々と増やされ今日に至る。その中でも、私は壁面を彩る綴織りのタペストリーに魅かれる。制約となるはずの経糸を逆利用して“織物の自由さ”を示し、手間暇を掛け自分のイメージを自分の手で“織物独自の美”へ昇華させるという、“極めてフェティシュな喜び”が私をタペストリー制作に向かわせる。そして、私の使命は、行き場を失いつつあるタペストリーを21世紀にふさわしい審美的な新しい形態として、再び壁面へ呼び戻すことである。
永岡正至