多くの学生でごった返した大学の他の実習室とは異なり、織機の部屋はとても静かでした。これが、私の織物を始めた理由です。1993年のことです。それ以来、途中で少しばかりのブランクはあったけれども、タペストリーを織り続けています。静かな環境の中で、機の準備をし、心の声を託した糸を織り込む。何千回何万回と糸を叩き、下から上へと織り重ねてゆく。静寂、情熱、そしてある種の啓示。これらが揃わなくては私の作品は織り成されない。タペストリーは、繊維を使用した創作の一つである。繊維を使用した創作は、時代の時々で繁栄・衰退し、変貌し、迷走し、多様化し、その名称と概念もタペストリー、ファイバー・アート、テキスタイル・アート等々と増やされ今日に至る。その中でも、私は壁面を彩る綴織りのタペストリーに魅かれる。制約となるはずの経糸を逆利用して“織物の自由さ”を示し、手間暇を掛け自分のイメージを自分の手で“織物独自の美”へ昇華させるという、“極めてフェティシュな喜び”が私をタペストリー制作に向かわせる。そして、私の使命は、行き場を失いつつあるタペストリーを21世紀にふさわしい審美的な新しい形態として、再び壁面へ呼び戻すことである。

永岡正至

九州産業大学
http://www.kyusan-u.ac.jp/
英国エジンバラ芸術大学
http://www.ed.ac.uk/home
エジンバラ・タペストリーカンパニー
http://dovecotstudios.com/

PROFILE
永岡正至 Masashi Nagaoka
http://tapestries.jp
info@tapestries.jp
ART EDUCATION
2000年 英国エジンバラ芸術大学 大学院タペストリー専攻科修了
MFA, Tapestry, Edinburgh College of Art, Scotland, UK
1997年 九州産業大学 芸術学部 テキスタイルデザイン科卒業
BA, Textile Design, Kyusyu Sangyo University, Fukuoka, Japan
GRANT
Andrew Grant Bequest Award, Edinburgh
AWARD
第40回日本現代工芸美術展奨励賞受賞 (東京)
第20回JAG展銀賞受賞 (東京)
SLECTED EXHIBISION
2016年 Japan Expo 17, Paris
2015年 HYPER JAPAN Christmas Market, London
2015年 Japan Expo 16, Paris
2014年 Japan Expo 15, Paris
2002年 工芸15人展 京都
2000年 The New Generation Show, Glasgow
2000年 The Simon Jersey Tapestry Award, London

BIOGRAPHY

1973年
福岡県大牟田市に生まれる。
1993年
九州産業大学 芸術学部入学。
指導教授の広瀬純子氏に染織に関する指導を受け、織物に興味を持つ。
1997年
九州産業大学 芸術学部 テキスタイルデザイン科卒業。
4月
欧州織物の制作と研究のため単身で渡英する。
1998年
タペストリー作家モーリン・ホッジ/ Maureen Hodgeに師事する為、ロンドンからスコットランドへ移る。
10月
英国エジンバラ芸術大学 タペストリー専攻科入学。
モーリン・ホッジMaureen Hodgeを始め、フィオナ・マシソン/ Fiona Mathson、スーザン・モーワット/ Susan Mowatto等に指導を仰ぐ。客員教授であったドイツの彫刻家 ピーター・ヤコビ/Peter Jacobiに叱咤激励を受ける。
2000年
英国エジンバラ芸術大学 タペストリー専攻科修了。
専攻科修了後も、タペストリー作家アーチー・ブレナン/Archie Brennan等の作品研究を続ける。エジンバラ・タペストリーカンパニー(ダヴコットスタジオ/DovecotStudio)の織師ジョニー・ライトから叱咤激励を受ける。
7月
画家ジェニファー・マックレア/Jennifer Mcraeの作品モデルをつとめる。
2001年
帰国後、京都へ移り、染め工房ふくたで職人として働く。
染織造形作家の久保田繁雄氏と面会。久保田氏より紹介された中井貞次氏と面会。中井氏と日本現代工芸美術家協会(近畿会)を通して、潮隆雄氏、市村冨美夫氏、河崎晴生氏、大住由季氏などの日本の染織作家達と交流する。
2002年
京都での制作活動を全面休止し福岡へ戻る。
2008年
福岡、熊本で制作活動の再開。

2010年以降は、一貫して“手織りであること”“壁面装飾品であること”を基本に、21世紀に相応しいタペストリーを模索し制作している。